相続が発生した際、被相続人に多額の借金がある場合や、相続に関わりたくない事情がある場合、相続放棄を検討することがあります。しかし、相続放棄には厳格な期限や手続きが定められており、正しく理解しておかないと取り返しのつかない事態になる可能性があります。
本記事では、相続放棄の手続き方法、必要な書類、期限、注意点について、2025年最新の情報に基づいて詳しく解説します。
相続放棄とは?
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産や負債を一切相続しないことを選択する手続きです。相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます。
相続放棄のメリット
- 被相続人の借金や負債を引き継がなくて済む
- 相続トラブルに巻き込まれることを避けられる
- 相続財産の管理や処分の責任を負わなくて済む
相続放棄のデメリット
- プラスの財産も含めて一切相続できない
- 一度放棄すると原則として撤回できない
- 次順位の相続人に相続権が移る可能性がある
相続放棄の期限は「3ヶ月以内」
相続放棄の最も重要なポイントは、期限が厳格に定められていることです。
相続放棄は、**「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」**に家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第915条)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。
期限の起算日について
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、通常は以下のタイミングを指します:
- 被相続人が死亡したことを知った時
- 自分が相続人になったことを知った時
例えば、第一順位の相続人(子ども)が全員相続放棄した場合、第二順位の相続人(両親)は、自分が相続人になったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄の判断をする必要があります。
3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合
原則として、3ヶ月の期限を過ぎると相続放棄はできなくなり、自動的に単純承認(すべての財産と負債を相続する)したものとみなされます。
ただし、例外的に期限を過ぎても相続放棄が認められる場合があります:
- 相続財産の存在を知らなかった正当な理由がある場合
- 被相続人に借金があることを知らず、相当期間経過後に債権者から請求を受けた場合
この場合、家庭裁判所に対して、期限を過ぎた理由を詳しく説明し、相続放棄を認めてもらう必要があります。ただし、必ず認められるわけではないため、できる限り3ヶ月以内に手続きを完了させることが重要です。
熟慮期間の延長申立て
3ヶ月以内に相続財産の調査が終わらない場合や、相続放棄するかどうかの判断ができない場合は、**「熟慮期間伸長の申立て」**を家庭裁判所に行うことができます。
この申立ては、原則として3ヶ月の期限が経過する前に行う必要があります。
相続放棄の手続き方法
相続放棄の手続きは、以下の流れで進めます。
1. 相続財産の調査
まず、被相続人の財産状況を調査します:
- プラスの財産:不動産、預貯金、株式、車、保険金など
- マイナスの財産:借金、ローン、未払いの税金、連帯保証債務など
財産調査は、以下の方法で行います:
- 通帳や証書、契約書などの書類を確認
- 郵便物や督促状をチェック
- 信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター)に照会
- 不動産登記簿の調査
2. 相続放棄申述書の作成
相続放棄をすることを決めたら、家庭裁判所に提出する「相続放棄申述書」を作成します。
相続放棄申述書は、裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。
相続放棄申述書の記入項目
- 裁判所名:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 作成年月日
- 申述人の情報:本籍地、住所、氏名、生年月日、電話番号、被相続人との続柄
- 被相続人の情報:本籍地、最後の住所、職業、氏名、死亡年月日
- 申述の趣旨:「相続の放棄をする」を選択
- 申述の理由:相続放棄の理由を選択(債務超過、相続財産が少ない、遺産争いに関わりたくないなど)
- 相続財産の概略:不動産、預貯金、借金などの概算額
3. 必要書類の収集
相続放棄の申述には、以下の書類が必要です。
全員共通の必要書類
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 郵便切手(家庭裁判所によって異なるが、一般的に110円切手×5枚程度)
申述人の立場別の追加書類
相続放棄する人が誰かによって、追加で必要な戸籍謄本が異なります:
【被相続人の配偶者が相続放棄する場合】
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
【被相続人の子ども(第一順位)が相続放棄する場合】
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
【被相続人の直系尊属(両親・祖父母)が相続放棄する場合】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍、改製原戸籍)
- 被相続人の子どもやその代襲者で死亡している人がいる場合、その人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
【被相続人の兄弟姉妹(第三順位)が相続放棄する場合】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合、その人の死亡の記載がある戸籍謄本
4. 家庭裁判所への申述
必要書類が揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します。
提出方法
- 窓口提出:家庭裁判所の窓口に直接持参
- 郵送提出:家庭裁判所宛に郵送(期限内の消印があれば有効)
提出先の確認方法
裁判所のウェブサイトで、管轄の家庭裁判所を確認できます。
5. 家庭裁判所からの照会
申述書を提出後、家庭裁判所から照会書(質問書)が送られてくることがあります。照会書には、相続放棄の理由や相続財産の状況などについての質問が記載されています。
回答期限内に、正直に回答して返送してください。虚偽の回答をすると、相続放棄が認められない可能性があります。
6. 相続放棄申述受理通知書の受領
家庭裁判所が相続放棄を認めると、**「相続放棄申述受理通知書」**が郵送されます。通常、申述から1〜2週間程度で届きます。
この通知書は、相続放棄が正式に受理されたことを証明する重要な書類です。大切に保管してください。
7. 相続放棄申述受理証明書の取得(必要に応じて)
債権者などに相続放棄したことを証明する必要がある場合は、**「相続放棄申述受理証明書」**を家庭裁判所に申請して取得できます。
- 手数料:150円(収入印紙)
- 申請方法:家庭裁判所の窓口または郵送
- 何通でも取得可能
相続放棄の費用
相続放棄を自分で行う場合、以下の費用がかかります:
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 収入印紙 | 800円 |
| 郵便切手 | 約550〜1,000円 |
| 戸籍謄本等の取得費用 | 1通450〜750円×必要枚数 |
| 合計 | 約3,000〜5,000円 |
複雑な案件や、期限が迫っている場合、期限を過ぎてしまった場合などは、相談することをおすすめします。
相続放棄の注意点
相続放棄を行う際には、以下の点に注意が必要です。
1. 相続財産に手をつけてはいけない
相続放棄をする前、または相続放棄後に、被相続人の財産を処分したり、使用したりすると、**「法定単純承認」**が成立し、相続放棄ができなくなる可能性があります。
してはいけない行為の例
- 預貯金を引き出して使う
- 不動産を売却する
- 遺品を処分する、形見分けをする
- 被相続人の携帯電話料金を支払う
- 被相続人の債務を返済する
例外的に許可される行為
- 葬儀費用の支払い(社会通念上相当な範囲内)
- 仏壇や位牌など、祭祀財産の承継
- 形見分けとして経済的価値の低いものを受け取る
- 腐敗しやすい食品の処分など、保存に必要な行為
2. 次順位の相続人への影響を考える
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移ります。
相続順位:
- 第一順位:子ども(代襲相続:孫、ひ孫)
- 第二順位:直系尊属(両親、祖父母)
- 第三順位:兄弟姉妹(代襲相続:甥、姪)
例えば、被相続人の子どもが全員相続放棄すると、被相続人の両親に相続権が移ります。被相続人に多額の借金がある場合、次順位の相続人にも影響が及ぶため、事前に連絡しておくことが望ましいです。
3. 撤回や取り消しは原則できない
一度相続放棄が受理されると、原則として撤回や取り消しはできません。
ただし、以下のような場合には、取り消しが認められることがあります:
- 詐欺や強迫によって相続放棄した場合
- 未成年者が法定代理人の同意なく相続放棄した場合
- 成年被後見人が後見人の同意なく相続放棄した場合
4. 相続放棄後も管理義務が残る場合がある
相続放棄をしても、相続財産の管理義務が残る場合があります(民法第940条)。
特に、相続放棄した人が相続財産を現に占有している場合、次の相続人が相続財産の管理を始めるまで、自己の財産と同一の注意をもって管理する義務があります。
例えば、相続放棄した人が被相続人の家に住んでいる場合や、不動産の鍵を持っている場合などです。
管理義務を解除するには、**「相続財産管理人の選任申立て」**を家庭裁判所に行う必要があります。
5. 生命保険金や死亡退職金は受け取れる場合がある
相続放棄をしても、以下のものは受け取ることができる場合があります:
- 生命保険金(受取人が指定されている場合)
- 死亡退職金(受取人が指定されている場合)
- 遺族年金
これらは、相続財産ではなく、受取人固有の財産とみなされるためです。ただし、受取人が「被相続人」や「相続人」と指定されている場合は、相続財産となるため受け取れません。
6. 相続税の基礎控除への影響
相続放棄をした人も、相続税の基礎控除額の計算では、法定相続人の数に含まれます。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
ただし、相続放棄をした人自身は相続税を負担する必要はありません。
まとめ
相続放棄は、被相続人の借金や負債を引き継がないための有効な手段ですが、厳格な期限と手続きが定められています。
相続放棄のポイント:
✓ 期限は原則3ヶ月以内(自己のために相続の開始があったことを知った時から)
✓ 家庭裁判所への申述が必須
✓ 相続財産に手をつけてはいけない
✓ 次順位の相続人への影響も考慮する
✓ 費用は約3,000〜5,000円(自分で行う場合)
相続放棄を検討する際は、早めに相続財産の調査を行い、期限内に適切な手続きを進めることが重要です。判断に迷う場合や、手続きが複雑な場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
適切な相続放棄の手続きを行うことで、不要な負債を引き継ぐことなく、新たなスタートを切ることができます。
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